
効果的なカスタマーハラスメント対策方針の策定ガイド:カスタマーハラスメント対応研修を円滑にすすめるために
2025年04月08日 22:43
近年、顧客からの過度な要求や暴言、威圧的な態度など、いわゆる「カスタマーハラスメント」が社会問題として注目されています。厚生労働省の調査によれば、顧客対応業務がある企業の約7割がカスタマーハラスメントの経験があると報告されており、従業員のメンタルヘルスや離職率に大きな影響を与えています。
こうした状況の中、企業には従業員を守るための「カスタマーハラスメント対策方針」の策定そして「カスタマーハラスメント対応研修」の実施が急務となっています。本コラムでは、カスタマーハラスメント対応の企画担当者や労務管理者の方々に向けて、効果的なカスタマーハラスメント対策方針の策定のポイントを解説します。
目次
1.カスタマーハラスメント対策方針とは何か
2.カスタマーハラスメント対策方針策定の5ステップ
3.カスタマーハラスメント対策方針に含めるべき7つの重要要素
1.カスタマーハラスメント対策方針とは何か
「カスタマーハラスメント対策方針」とは、顧客からの不当な言動から従業員を守るための企業としての基本的な考え方と具体的な対応手順を明文化したものです。この方針は単なる文書ではなく、企業の姿勢を内外に示し、実際の問題発生時の行動指針となる重要なツールです。カスタマーハラスメント対策方針には以下の要素が含まれます・
企業のカスタマーハラスメントに対する基本姿勢
カスタマーハラスメントの定義と具体例
カスタマーハラスメント発生時の対応プロセス
従業員保護のための具体的措置
カスタマーハラスメント対応研修や啓発活動の計画
継続的なカスタマーハラスメント対応、対策の改善の仕組み
2.カスタマーハラスメント対策方針策定の5ステップ
STEP1:現状把握と課題の明確化
効果的な対策方針を策定するためには、まず自社の現状を正確に把握することが重要です。以下のようなカスタマーハラスメントに関する調査を実施しましょう。
従業員アンケートや面談によるカスハラ経験の収集
過去のクレーム記録の分析と傾向把握
業界特有のカスハラリスクの洗い出し
現行の対応プロセスの評価
これらの情報をもとに、自社特有のカスタマーハラスメントに関する課題を明確にします。例えば、特定の部署や状況で発生しやすい、対応マニュアルが不十分、従業員の心理的サポートが不足しているなどの課題が浮かび上がるでしょう。
STEP2:対策方針の骨子作成
現状分析に基づき、以下の項目を含む方針の骨子を作成します:
・基本理念:「当社は従業員の尊厳と安全を最優先し、カスタマーハラスメントに毅然とした態度で対応します」など
・定義と範囲:何をカスタマーハラスメントと見なすかの具体的な定義
・責任と役割分担:管理職、現場社員、人事部などの役割
・対応プロセス:顧客トラブル発生時の初期対応から解決までの流れ
・サポート体制:被害者となった従業員への心理的・法的サポート
・研修計画:カスタマーハラスメント対応研修の実施計画
STEP3:社内での合意形成
カスタマーハラスメント対策方針は全社的な合意のもとで運用されるべきです。以下のプロセスで合意形成を進めましょう。
経営層への提案とコミットメント獲得
部門責任者との協議
現場従業員からのフィードバック収集
労働組合との協議(該当する場合)
法務部門によるリーガルチェック
特に現場の声を取り入れることで、実効性の高いカスタマーハラスメント対策方針となります。現場スタッフが「これなら安心して業務に取り組める」と感じられる内容を目指しましょう。また、経営陣は「それは無理」等と制限しない様に対策を考えられるようにしましょう。カスタマーハラスメント対策には、例えば防犯カメラの設置や警備員の増員のようにある程度のコストを見込まなければならないことがありますが、それを渋っていてはカスタマーハラスメント対策にならないことを肝に銘じましょう。
STEP4:具体的なマニュアルと研修プログラムの開発
方針を実践するための具体的なツールを開発します。
対応マニュアル:段階別の対応手順を詳細に記載
エスカレーションフロー:誰に、どのタイミングで報告・相談するか
記録フォーマット:事案の記録方法と保存期間
カスタマーハラスメント対応研修プログラム:具体的なカスハラ判断の仕方、エスカフロー、シミュレーション等を含む実践的な内容
管理職向け研修:部下のケアや報告受領時の対応方法
研修プログラムは一度きりではなく、定期的に実施する計画を立てることが重要です。新入社員研修にも組み込むことで、入社時から会社の姿勢を理解してもらいましょう。
STEP5:運用と評価・改善の仕組み
策定したカスタマーハラスメント対策方針を形骸化させないために、継続的な評価と改善の仕組みを組み込みます。
四半期ごとのカスハラ事案の集計と分析
半年に一度の従業員アンケート実施
年次の方針レビューと更新
外部環境の変化(法改正など)への対応
3.カスタマーハラスメント対策方針に含めるべき7つの重要要素
1. 明確な適用範囲と定義
カスタマーハラスメントには曖昧な領域も多いため、何が許容されず、何が対策の対象となるのかを明確にします。
暴言・脅迫・威圧的言動
執拗な要求や長時間拘束
個人情報の不当な要求
SNSなどでの誹謗中傷
セクシャルハラスメント的言動
差別的言動
具体例を挙げることで、従業員も顧客も理解しやすくなります。
2. 段階的対応プロセス
状況に応じた段階的な対応を明記します。
第1段階:初期対応
冷静に状況把握に努め、相手の話しを正確に把握する
不当な要求なのかどうかの判断。明らかな不当要求の場合は方針やルールに従って対応する
上司や同僚に状況を共有する
第2段階:エスカレーションの必要がある場合
管理者の介入
録音や記録の開始
複数人での対応
第3段階:不正や不当な要求に甘んじないひるまない対応
サービス提供の中止の検討
警告書の発行(各社のルール等による)
法的措置の検討(各社のルール等による)
3. 従業員保護措置
被害を受けた従業員を守るための具体的措置を明記します。
即時の業務切り替え権限(各社のルール等による)
メンタルヘルスケアの提供
特定顧客との接触回避措置(各社のルール等による)
法的手続きが必要な場合の会社としてのサポート(各社のルール等による)
4. 責任者と報告ライン
誰に報告し、誰が判断するのかを明確にします。
現場リーダーの権限と責任
部門責任者の役割
人事・法務部門の関与
経営層への報告基準
5. 顧客への周知方法
カスタマーハラスメント対策方針やカスハラをしない様に呼びかけるポスター等は顧客に伝えることでカスタマーハラスメントの抑止を企図しましょう。
店頭・施設内の掲示
Webサイトでの公開
契約書・利用規約への記載
サービス開始時の説明
電話がつながった時に「カスハラ防止」をアナウンス
6. カスタマーハラスメント対応研修計画
効果的な研修は対策の要です。以下の要素を含む研修計画を策定します。
新入社員向け基礎研修
現場スタッフ向け実践研修(年2回以上)
管理職向け対応研修
外部専門家による研修
ケーススタディとシミュレーション
7. 検証と見直しの仕組み
PDCAサイクルを回すための具体的な仕組みを設定します。
四半期ごとの事案分析
半年ごとの従業員ヒアリング
年次の方針レビュー会議
外部環境変化への対応プロセス
まとめ:
効果的なカスタマーハラスメント対策方針の策定と運用は、「従業員を守る」という直接的な目的だけでなく、以下のような好循環を生み出します。
従業員の安心感と帰属意識の向上
離職率の低下と人材確保の優位性
顧客とのより健全なコミュニケーション
企業イメージと社会的評価の向上
生産性と創造性の向上
最終的な顧客満足度の向上
カスタマーハラスメントは避けて通れない課題ですが、適切なカスタマーハラスメント対策方針とそれに基づくカスタマーハラスメント対応研修等があれば、従業員も安心して働くことができるでしょう。本稿が、皆様の職場における効果的なカスタマーハラスメント対策方針の策定の一助となれば幸いです。
【執筆者】
◆参考Webサイト◆
カスハラの事をもっと知りたい: https://www.ax-learning.jp/column/customer-harassment
カスハラ講演会を開きたい: https://www.ax-learning.jp/lecture/customer-harassment
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