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カスタマーハラスメント対応の実務:唾を吐きかけられた時の緊急対応と加害者心理

カスタマーハラスメント対応の実務:唾を吐きかけられた時の緊急対応と加害者心理

2025年06月25日 08:11

公共窓口や接客の現場で「唾を吐きかける」という暴行行為・ハラスメント行為は、精神的・衛生的にも大きな被害をもたらし悪質な行為です。驚かれるかもしれませんが、唾を吐きかけてくる人は一定数います。この行為には、単なる不満の表現を超えた、深い敵意や侮辱の意思が込められていると思慮されます。

心理学的に見ると、唾を吐く行為は相手を「人間以下」と見なし、「穢れ」として扱う最も原始的な侮辱の表現です。加害者の中には、反射的におこなっている場合もありますが、根底には「相手を見下し、支配しようとする」強い感情があるとされます。


2025年6月時点でこれに関連する内容を記載しているコラムやカスハラ対策研修のカリキュラムをwebにアップしている企業を確認できませんでしたので、今回は、カスタマーハラスメント対応の現場で時折見られる「唾を吐きかける人」への対応策をまとめます。コラムの中では簡単な導入しか紹介できていませんので、市役所等で不特定多数の様々な利用者がいる職場では、弊社アックスラーニングが提供する専門的なカスハラ対応研修やコンサルティングを受け、コラムに記載していない重要な対応法の習得や組織対応方法の策定をすることをお勧めします。


目次

1.職場で唾を吐きかけてくるような人がいた場合、どの様に対応したらよいか?

2.唾を吐きかけた人の言い分やその特徴

3.唾を吐きかける人の心理的特徴とは?

4.唾を吐く以外の非言語で侮辱を伝える行動

最後に:カスハラから自分と職場を守るために

1.職場で唾を吐きかけてくるような人がいた場合、どの様に対応したらよいか?

まず、唾を吐く行為は身体的接触を伴わなくても明確な加害行為です。発生した際は以下の流れで対応することを筆者はお勧めしています。

❶即時の安全確保:即座に距離を取り、安全確保。挑発行為に乗らず、反射的に手を挙げたりせず、とにかく離れる
❷初期対応:「唾を吐きかけることはやめてください」と周囲のスタッフやお客様に状況が分かるように伝える
❸組織としての対応:上席や他の方が対応できる職場であれば、周囲のサポートを求め、被害を最小限にする。そして客観的な上司等が「なぜこの行為に至ったのか」を双方に確認。もし、一方的な被害であったとすれば、被害従業員は退席させる。従業員に非がある可能性があれば、謝罪のうえ、しかし唾が吐き掛けられているので衛生対応とクールダウンのため、一旦離席させる。そして、今後どの様な話し合いをすべきか、加害者と別の担当者(できれば上席が望ましい)双方で決める
※「唾を吐きかけてくる」行為は暴行行為であるので原則論、対応を終了させ、「三変の法則」に基づき後日対応が望ましい
❹組織対応が叶わない場合:更に言動がエスカレートし暴力や器物損壊をおこす可能性がある場合、警備員や警察への通報し、他のお客様に声をかけ安全を確保させる。※通報の仕方は練習が必要であり、特に通報直後から警察等到着までの間の対応が難しいため、カスハラ対応研修等で取り入れることが望ましい
❺記録と証拠の確保:対応後、状況、言動を記録(唾をかけられたものの保全や記録写真を残す)し、必要に応じて第三者の証言や防犯カメラの映像確保をする。被害者は、会社や組織へ顛末を報告する。会社側は、警察への被害届の提出を検討したり、カスハラ対応の事後検討をする
❻医療・衛生対応:唾が顔に掛けられたり、目に入ったりした場合、速やかに洗浄そして医療機関に受診させてから❺の対応をすると良い

ワンオペレーションの職場であれば、上記の流れどおりに対応をすることは困難です。この場合、上記❸に変わる対応として「店内外の人への応援要請」「警察への通報」等の対応方法を予め策定することがカスハラへの企業の備えとなります。

上記対応の中でも「衛生対応」に責任を持つことが企業としてのカスハラ対策です。そのため、医療機関へ行った際の医療費は、会社が負担するのか、加害者に負担させるのかも予め決めておく必要があります。これまでカスハラの一つとして「唾を吐きかける」という侮辱的な暴行があっても、被害者に同情するだけで何ら事後対応をしてくれない企業や組織がほとんどでした。これを見直し、従業員の苦痛を緩和させていくことがカスハラ対応の基本的な理念であることを企業は理解する必要があります。

そもそも、相手に唾を吐きかけるという行為はどの様な行為か?

通常、緊張時は交感神経が優位となり、唾液は減少します。ですから、通常、怒りや敵意を持ち緊張状態にある人であれば、相手に向かって「唾を吐く」という行為はしにくいものなのです。

ではなぜ、「唾を吐きかける」人がいるのかというと、この様な人はあえて唾液を溜める動作を意識的に無意識的におこない、「相手に唾を吐きかける準備」をしていると考えられます。※グレートムタの毒霧と同じでしょうか?よって、この行動は、「相手に侮辱を与えるための準備」を伴う暴行行為であるため、衝動的というよりは計画的な側面が強いと考えられ、その分、悪質であることが想像できます。

唾を吐きかけた場合の法的な扱いはどうなるか?

唾を吐きかけた場合は、簡単に示せば、唾が人に当たれば暴行罪、物に当たれば器物損壊罪となる可能性があり刑事罰の対象にもなり得る行為です。だから、企業側も甘く見ずに対応する必要があります。


 ≪対象≫     ≪該当する可能性のある罪≫

 人の身体       暴行罪(刑法208条)

 器物・施設      器物損壊罪(刑法261条)


時々、カスハラ研修やクレーム研修で「今の行為は、暴行罪です」と罪名を告げるのが良いと教える講師がいるようですが、筆者の経験ではカスハラや不当要求等をする人にはかえって火に油を注ぐことになるケースが多いと感じていますので、筆者はそのような罪名を口にする行為をお勧めしません。カスハラッサーや不当要求をする人の思考の一例は揚げ足取りです。天才的に相手が発した言葉を巧みに利用し揚げ足を取ります。「相手に刺激を与えないこと」がカスハラ対応や不当要求対応の原則と筆者は考えていますので、罪名の様な不用意に相手を刺激する言葉を言わないのです。


「毅然と対応して」とよくいう講師がいますが、こういった講師は実務経験をほとんどしていない方が多いので、「毅然と伝えたらその後どうなるのか」を知らないのでしょう。ほとんどのケースで「それで形勢逆転できると思ったのか」「法律をちょっと知ったいるくらいでいい気になるな」「こいつ、お客様を犯罪者呼ばわりしていまーす。○○市役所は市民を犯罪者扱いしまーす」「あんたは、裁判官でも法律家でもないのに、よくそんなこと言えるな」「あなたは、法律の知識まであって頭がいいんですね~。じゃあ、相手を犯罪者のように言うことは推定無罪の観点から適切なんですか?博学なあなたならわかるでしょう?法律詳しいでしょ?法解釈の観点で答えてみてよ(笑)」といった具合に返り討ちに合います。最も多いケースは「じゃあ、訴えろよ」と語気激しく叫ぶケースでしょう。ここから「訴えろ」や「警察呼べ」等と連呼され、罪名を言ったことがトリガーとなり増々炎上するのです。


カスハラ対応のために知っておくべき知識の一つでもありますが、そもそも、罪名を伝えてひるむような人はカスハラに至りません。「毅然と伝えて」鎮火できるレベルは軽度なクレーマーレベルだと筆者は考えます。一方、些細な事や普通なら怒らない言葉に敏感に反応し反射的に次々と攻撃をしてくることがカスハラッサーの特徴です。ですので、刑事罰の可能性がある行為をされた場合は、罪名など言わず、刺激を与えない様に直ぐに距離を取り対応を一旦終えるといった対応方針を選択することが現場では適していると、筆者の実務経験とクライアント先のクレーム・カスハラ調査の傾向から言えると思っています。

2.唾を吐きかけた人の言い分やその特徴

唾を吐きかける人の多くは、「あいつの言動が我慢できなかった」「軽んじられたと感じた」「あいつが悪い」等、自分が相手からとてつもない迷惑や嫌がらせを受けていて、「被害を受けているのだからその報復は当然」と認知していることが多いと考えられます。カスハラッサーの特徴の一つは「被害者意識を有していること」ですので、「唾を吐きかける人」は、やはりカスハラ傾向が強いと言えるでしょう。

唾を吐きかけた人に言動的特徴はあるか?

唾を吐きかける前の行動として、以下の行動が良く報告されています。
❶エスカレートしていき、「なめるな」「バカにしやがって」などの被害者感情を持つような暴言がある
❷口元をすぼめる、不自然な間がある
❸急な接近や不必要な体の揺れ、威嚇行動が目立つ
これらの兆候を察知したら、速やかに距離を取り、安全を優先するように訓練することが、カスハラ対策です。※筆者が提供する専門的なカスハラ等のトレーニングでは、応対時の「相手の観察法」をシミュレーションしています。
なお、筆者の体験では、暴行を働く方の予兆行動として、「目が見開いていたり、逆にとろんとうつろな目をしている」ケースを何度か見かけました。共通していることは、何かを確信したように相手をしっかりと見据えていることです。

「なめるな」という言葉を使う人の深層心理

男女問わず、カスハラッサーの報告例では、「なめんじゃねえよ」と汚い言葉を発する人が多いです。普段はそのような口調でない方でも、「なめんな」等ということがあるので、カスハラをする人は人格が複数あるような感覚を覚えることもあります。なお、「なめんじゃねー」という方は、以下のような心理傾向が考えられます。

  • 自己肯定感が低く、軽視されることに(軽視されていると思い込む)過敏

  • 他者への攻撃で自尊心を回復しようとする

  • 優位に立ちたい支配的欲求

  • 被害者意識の強さと被害妄想的思考


研修等でたまに質問があるのですが、トラブル後の面談時に、つかつかと歩いてきていきなり唾を吐きかけるような人や、仲間を連れてきてその仲間が周囲に唾を吐く行為もあると聞きます。そのような方々は以下の心理が働いていると筆者は考えています。

唾を吐く行為は「反社会性」「支配欲」「威嚇行動」と強く関連

  • 相手を下に見せつける原始的な侮辱行動

  • 犬や動物の威嚇行動と似た本能的動き

  • 社会規範に対する拒絶・挑戦の表現

特に公共空間での唾吐きは、自己誇示や不満の誇張行為であることが多いと思われます。

3.唾を吐きかける人の心理的特徴とは?

唾を吐きかけるような、いわば反社会的な行動を取る人は以下の可能性が考えられます。

  • 共感性の欠如:相手の立場や気持ちに関心を持たない

  • 衝動性:怒りや不満が即座に行動として現れる

  • 責任転嫁傾向:自分の非を認めず、他者を攻撃する

  • 支配・操作欲:相手より優位に立ちたい、制御したい欲求が強い


いかがでしょうか?こうした心理を持つ相手に、普通のお客様を相手にする対応では効果があるはずがないことに気付きます。カスハラ対応に代表されるような、特殊な心理、行動、行為をする相手には、相手の心理的特性を踏まえた対応が必要であり、それがカスハラ対応の専門性となるのです。

4.唾を吐く以外の非言語で侮辱を伝える行動

唾を吐く以外にも、非言語で侮辱を伝える行動には次のようなものがあります。暴力や暴行と比べればましに思えますが、相手に対して敬意が無い点は共通と言えましょう。

  • 見下すような冷笑

  • 舌打ち

  • 無言の圧、目を合わせない、背を向ける

最後に:カスハラから自分と職場を守るために

「唾を吐きかける」という行為は、侮辱行為として攻撃性が強く、深刻な人権侵害です。個人の忍耐や対応力に頼るのではなく、組織として対応マニュアルや支援体制を整備し、被害従業員を守る仕組み作りが求められます。

本コラムが、接客・窓口業務に携わる皆様と、その職場の安全と尊厳を守る一助となることを願います。


【執筆者】

アックスラーニング代表 岩崎重国(プロフィールへ)


◆参考Webサイト◆
カスハラの事をもっと知りたい: https://www.ax-learning.jp/column/customer-harassment

カスハラ講演会を開きたい: https://www.ax-learning.jp/lecture/customer-harassment

厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/

あかるい職場応援団: https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/


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